*当サイトではアフィリエイト広告を利用して商品を紹介しています。

vol.03 『真夏の夜と都会の海』

■@nifty主催 「トラバる場合ですよ」■



稲川淳二さんの「真冬の怪談物語

佳作受賞作品

今回のお話は今の季節に丁度いいかな?
このメルマガ書き始めようと思ったきっかけのひとつのお話です。
できれば、夜中に読んでほしいですねぇ。
電気消して…ディスプレイの明りひとつで……。


======================================
■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
======================================
『真夏の夜と都会の海』
その団地は、以前に大きな事故を起こしてしまい社会問題にまで発展してしまった某エネルギー系の会社の社宅だった。
あの事故の後その会社は傾き、大々的なリストラでもあったのだろうか?
若い家族で賑わっていた社宅はみるみるうちに閑散としてしまった。
それでもまだ何家族かは住んでいて、以前ほどではないのだが配達に行くこともある。
しかし…人が住んでいないと建物は寂れてしまうようで、
いたずらなのかいたるところで窓は割れ、敷地内も雑草が生え、
なんとなく廃墟の様な雰囲気が漂ってしまうようになっていた。
あの日は暑い夜だった…。
社宅の住所で荷物が来た。
夜はあまり行きたくない雰囲気なので昼のうちに行こうとルートを組み、配達に行ったが部屋が無い。
表札も確認したが該当なし。
伝票記載の住所では『107号室』になっているが、
社宅は『106』までしかない。
(ふぅ…住所を書き間違えてるな。しょうがない電話するか。)
こんな間違いはしょっちゅうある。仕方なく電話を掛けてみる。
しかし不通。電話番号も違っているようだ。
 
(住不だな…。調査に回そう。)      *住不…住所不明の略
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
配送所に帰ると伝票整理が待っている。
不在の荷物を降ろしさっそく調査係に伝票を渡す。
「これ住不。電話も不通。106号までしかないし、該当表札も無し。」
 
最近は調査といっても配送所でも判らない場合は荷主の方に連絡する事になっている。
「この荷物は現在こういう状態ですよ」と速やかに報告するわけだ。
配送所での最終調査は…所長がお客様にもう一度電話をするだけだ。今回も所長が電話を掛ける。
(出るはずないよ。使われてないもん)
ところが。
「あ、もしもしこちら○○運送ですが…」
(繋がった?なんで?さっき掛け間違えたか?)
ハイハイと答える所長。確かに繋がっているようだ。
電話を切った所長は伝票を返しながら「繋がったよ。住所正当だって」と言った。
なんとなく(ちゃんと電話番号確認しろよ)と言われてる感じ。
そして受け取った伝票には赤マジックで『18時以降』の文字が。
「マジで?」
「マジ。」
夜は行きたくないのに、なんであの時繋がらなかったかなぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして指定日の夜。
18時以降が集中して早く行きたかったのに20時近くになってしまった。
夜の社宅は昼とは全く違い荒涼とした感じさえ受ける。外灯も点かず月の明かりさえ薄暗く感じる。
住所が正当という事は『104』が抜けているとか、部屋の割り振りが違うとかそういうことなんだろう。
もう一度確認してみる。
102、103104…。ちゃんとある。106まで。
すると1階ではないのか?2階に上がってみたが206号になっている。やはり住不だ。
仕方ない。もう一度電話を掛けることにする。
リダイヤルではなくキチンと番号を押す。
今度は掛かった!
呼び出し音が鳴っている。
やはり昼は間違えたのか。
ガチャ。相手が出た。
「もしもし、昨日お電話した○○運送ですがもう一度ご住所の確認を…」
確かに繋がっているはずだが、相手は無言だ。
いや何か聞こえる。受話器を耳に押し当てる。
ザザ…ザザ…ザザザ…
…雑音?
無言だがこちらまで無言になるわけにいかない。
話を続けてみる。
「えーと、もう一度ですねぇ、お部屋番号の確認…」
「合ってます」
「は?あー、ご住所ですね。いや伝票では107になっているんですが」
「…合っています」
女性の声だ。
雑音が酷くてよく聞き取れないがしかし合っていると言われても判らないものは判らない。
確認しようとしたその時にいきなり背後からクラクションを鳴らされた。
どうやら他の住人が帰宅してきたようだ。
慌てて車を脇に寄せてから電話に話を戻したが、切れていた。
掛けなおすが今度は呼び出し音が鳴るばかり。
何度か掛けなおすが結果は同じ。
困ったなと思ったが、そうかと思い直す。
今帰ってきた住人に聞けばいいんだ。
住人が車を停めて来るのを待ってから尋ねてみる。
「すいません、107号はどちらになるか判りますか?」
 
しかし返答は以外にも「で?何の用?」
そういう返答は予想していなかっ
たので少しムッとしながらも「あ、いや判らなければ結構ですから」と答えた。
仕方なく車の中で地図を広げる。
合っていると言われた以上また住不で持ち帰るわけにもいかない。
部屋が無いなら住所が違うとしか考えられない。
町名が違うとか。区が違うとか。
車内灯の明りで地図を見ていると、ふと違和感を感じた。
前を見る。
車が停まっている。配達に来た車のようだ。
(この人もここに夜に配達か)
と同情しながらも地図に目を戻す。
しかし…。また違和感。
いや異様な感じだ。
毛穴が開いていくような異様な感覚。
また前を見る。
今度は判った。瞬間的に!
俺のクルマだ!
なんでだ?
ナンバーが同じ。
俺はここでクルマに乗ってる。
何故同じナンバーのクルマが目の前にある?
クルマを降りて確かめに行く。
何故だ?
間違いない!
へこみからステッカーまで同じだ。
俺のだ。
何故だ。
シートカバーまで!
何故同じクルマが2台ある?
勘違いなんかじゃない。
間違いなく俺のクルマだ。
その時、突然後ろから声をかけられた。
飛び上がりそうになりながら振り向くとさっき帰った住人が夫婦で出てきていた。
「107号はあそこだよ。取り壊したんだ。建物ごと。事情があってね。…今はホラ、墓が建ってる。」
「!!」
確かにそこには墓石らしきものが。
そしてそこに誰かがいる!歩いてる!
 
住人の話は続いている。
俺を怪しがりながら。
当然だ。
こんな夜に墓の場所を聞くなんて危ない奴。そんな風に。
当然だ。
「…事故の後…そう…責任…海で」
途切れ途切れに話が聞こえている。
(あぁ、雑音じゃなかったんだ。海鳴りだったのか。)
だが、話なんか聞いてられなかった。
目が、目が向こうに歩いていくやつから離せなかった。墓のほうに歩いていくあいつは…あれは…俺だ!
少し波に足を取られる様に歩いていくあいつは、俺じゃないか!
「おい!」
ハッとした。
住人に肩をつかまれた。
呪縛が解けた。
住人に一瞬目を向けすぐ戻した。
無い!
クルマが!あいつも消えた?!
あるのは俺の…俺の今
乗ってきたクルマだけだ。
う、うわあぁーっ!
いいっ!
変な奴って思われていい!
ただ逃げ出したい。
突然の叫び声に驚いている住人をよそにクルマに飛び乗り急発進させた。
飛び出して闇雲に走った。
夢じゃない。確かに見た!
…住人には判らなかったのか?
だからあそこの夜の配達は嫌だったんだよ!
18時以降なんかにしやがって!
グルグル廻る思考は、だんだんと所長への怒りに変わっていった。
同時に少し冷静になれた。
有り得ない。
有・り・得・な・い!あんな事。
電話する。
もう一度掛けるよ。
否定したいから。
「オカケニナッタデンワハ…」
繋がらなくなってしまった。
ははは…。パニックになると思ったが意外にも冷静でいられた。
…そう、思い出したから。
傷が…。傷があった。
あのクルマに。
そう!あったよ、俺のクルマに無い傷が!
そうだよ同じじゃない。
同じクルマなんかじゃないんだ!勘違いだ。
似ていただけだ。
クルマが無くなったのは単に移動しただけだ。
住人の方を向いていたのが一瞬だったんじゃなく何か会話したんだろう。
その間に…、という訳だ。
伝票も書き間違い。
電話が繋がらないのは何か転送とか…とにかく俺の知らないシステムのせい。
そしてその不良のせい。
海鳴りもそのシステムの雑音!
そうだよ、そうに決まってる。
もういい。
今日は帰ろう。
明日所長に事情説明だ。
もちろん
「やはり不明だけど電話が繋がらなくて持ち帰ってしまった」と。
多少申し訳ない素振りを見せるのも仕方ないだろう。
落ち着いてクルマを出す。
何てこと無い。全部勘違いだった。その時!
「バンッ!」
何かがクルマに当たった。
慌てて降りる。まさか人を…。
しかし何も無い。
そんなに重量物が当たった感じではなかった。
だとしたら木の枝とか?辺りを見回したが判らない。
生き物じゃなかったと思うが…。
「!!」
傷がっ!
あのクルマに付いていた傷が!
同じ場所に同じように。
う、うわあぁぁっ!
————————————————-
□関連記事(補足の記事です。)
『真夏の夜と都会の海』補足記事



コメント

  1. 両手を広げて、泣く学生。

    運転代行の仕事をしている時の話です。
    深夜2時を過ぎ仕事もひと段落ついたのでコンビニにより休憩をしようとしたときです
    薄暗い道路の真ん中に両手広げた学生…

タイトルとURLをコピーしました