クルマに荷物を積んでいる時です。
ある荷物を持ったとたん、「ん?」と違和感を感じました。
軽い…。
この取引先からの荷物はよく扱っているので、
何かおかしいと思ったのです。
いつもなら少し重みを感じる荷物なのに、
この時は、中身が入っていないくらいの軽さに感じたのです。
ちょっと違和感を感じていましたが、
お客さんの荷物を開ける訳にもいかないので、
その時は放っておいたのです。
ところが配達に出発する時になっても、やはり気になっていたので
内勤にその事を伝えてみると、やっぱり「おかしいね」という事になった
ので荷主に問い合わせをしてみたのです。
すると荷主は大慌て。
やはり中身はカラで商品の入れ忘れだったようです。
こんな風に、発送先で何らかのミスがあっても
外見で分かるものなら配送センターで発見できる場合もありますが
当然、配送センターでも発見できないミスもあるのです。
あの事件が起きたのは繁忙期も中盤に差し掛かった時でした。
————–2005/06/18 発行 第36号———————–
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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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『高級和牛を捕まえろ!!』
繁忙期の、超忙しい朝に一人の男がデポに駆け込んできました。
男は某デパートの責任者です。
はぁはぁと息を切らせながら事務所のドアを開けるなり叫びました。
「あ、あの!さっき電話した○○さんの品物なんですけど…」
「あ、はい。取っておきました。」
なんだか問題でも起きたのでしょうか?
デパートの責任者がわざわざ来るなんて珍しい事ですから
その後の展開が気になりましたが、忙しい朝の事ですからボクは荷物の
積み込みをするために仕分け場に行きました。
荷物の積み込みが終わって事務所に向かうと、内勤さんとデパートの男が
必死で何かを探していました。
「どうしたの?」
「え?○○さんってお宅の荷物なんだけどね、
さっきここに置いたのにないのよ~。どこいっちゃったのかな?」
「あぁ~、その荷物なら竹中さんが持って行ったよ。
『なんだよ~ナマモノこんなトコに置いちゃだめだよ~』
って言ってさっき出発したけど…」
雰囲気を和ませようとして、ちょっとモノマネして言ってみたんですが
どうも逆効果だったようです…。
「えええーっ!なんで止めてくれなかったの?」
「なんでって…。持って行っちゃダメだったの?」
「そうよっ!あぁ、もう大変」
「…だって知らねえもん」
「と、とにかくそのタケナカさんって人に連絡をっ!」
デパートの人も内勤さんも慌てて事務所に飛び込みました。
たぶん竹中さんに連絡するんでしょう。
でも、竹中さんは今日…。
事務所にボクも入っていくと内勤さんはイライラしているし
デパートの人は青ざめていました。
「竹中さん、電話出ないのよ」
そりゃそうだよ。だって竹中さんは今日…。
「えー…と竹中さんねぇ、今日ケイタイ忘れたって…」
なんだか空気に呑まれて申し訳ない気分で言いました。
ボクが悪いわけじゃないんだけれど。
「えええーっ!どうしてよ、もう!」
だって、ボクに怒られても知らねえって。
「定期的に連絡入れるって言ってたよ」
「そんなんじゃダメなの!あぁ、困ったわ…。
お客さんに電話するしかないかしら?」
そう言って内勤さんがデパートの人を見ると
青ざめた顔で、ゆっくり首を横に振りました。
「ダメなんです。連絡取ろうと思ったのですが、電話番号が
違っているんです。番号案内でも登録なかったんです」
「そうなんですか…。じゃあ、柏城さん!その家まで行って
竹中さんを止めて」
「ええー?だめだよ。午前中必着あるから、
竹中さんのエリアまでなんて行けないよ」
それで「じゃ、工場長に頼めばいいじゃん」と言いましたが
工場長は、竹中さんのエリアをよく知らないんだそうです。
「じゃ、方法はひとつね」とボクの意見も聞かずに
せっかく積み込んだボクのクルマで工場長がボクのエリアを回り
ボクは竹中捜索隊になってしまったのでした。
なんだか納得いかなかったのですが、代わりのクルマに乗って
さっさと竹中さんを見つけようと出発しようとすると
デパートの人も内勤さんもクルマに飛び乗ってきました。
「私も行きます!」
なんなんだよ一体?
竹中さんを見つけて止めりゃいいんでしょ?
3人も行く事ないよ。
「いや、心配で心配で気が気じゃないんですよ」
仕方なく3人で出発してからボクは聞きました。
一体全体何がどうなってるの?と。
「あのね…」内勤さんが話し始めたのを聞いてやっと事の重大さが
分かりました。ボクは巻き込まれちゃったわけですね。
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その日、デパートで棚卸をしていたんだそうです。
すると発送件数が合わない事が発覚して、
調べてみると、とんでもない仮説が浮かび上がったというわけです。
それは…
『高級和牛ギフトの中身を間違えて
店頭陳列用のレプリカを入れて送ってしまった可能性がある』
という事でした。
あわてて在庫チェックを確認したところ、
見当たらないのは商品の見本になるはずのレプリカだけ…。
それで朝一番にデポに電話して配達を止めたという事だったのです。
しかし「ナマモノだから」と事情を知らない竹中さんは
その荷物を持って配達に出てしまったと…
「そういうわけ?」
「そう。だから早く竹中さんを見つけて止めないと!」
「そうなんです。申し訳ないけれどお客さんの家の前で
待ち受けて配達を止めたいんですよ。」
そういう事ですか。
でも、まぁ大丈夫かなとボクは思いました。
竹中さんは、そのお客さんの付近はいつも午後に配達してますからね。
あわてている二人を乗せて、お客さんの家に向かっている途中
信号待ちしていると、脇道から竹中さんが出てきました。
ブビビビ~~…と、何も事情を知らない竹中さんのオンボロのクルマが
信号待ちしているボクたちの目の前を横切って行きました。
いつものようにのんきな顔をしています。
「あー!いた!竹中さんだ」
すると歩行者も結構いるにも関わらず、内勤さんは窓から顔を出して
「おーい、竹中さーん!止まってーっ!」と叫びました。
しかし全く気がつきません。
「止ーまーれーっ!」
うわっ!でけー声!
やめてくれ~、恥ずかしいじゃんかよ。
みんな見てるよ。
それでも全く竹中さんは気付かずにブビブビ走って行ってしまいます。
すると内勤さんは脇から手を伸ばして
クラクションを鳴らし始めました。
「やめろって!もう気がつかないって」
ブビビィ~と遠くなる竹中さんのクルマ。
「あ~…行っちゃった。早く追いついて!」
信号が青になって、ボクはダッシュで竹中号を追いかけました。
オンボロ竹中号には、すぐに追いついてクルマを止めました。
なんでこんなトコにいるんだ?と竹中さんは
運転席からボクたちを目を丸くして見ていました。
ふうぅ~、と安堵の表情を見せた内勤さんでしたが
その時電話が鳴ったのです。
デポに残っている別の内勤からでした。
「はい」
「架かってきちゃいました。○○さんから。…クレームです」
ああああぁ~。
やっと竹中さんに追いついたのに…。
無情にも最悪の結果になってしまいました。
「竹中さん、あっち方面は午後じゃないの?」
「なんだよ、ナマモノだから早く届けたのに。ダメだったのか?
うわぁ!お肉だって、すげえ喜んでたぞ?」
「…その喜びが、そのまま怒りに変わっちゃったんだよ」
「なんで?」
やっぱり中身はレプリカだったそうです。
しかも、ご丁寧に『保冷剤』まで入っていて。
最近のレプリカはよく出来ているから、
アルバイトは間違えちゃったんですかね~。
竹中捜索隊は、そのまま謝罪隊となってお客さんの家に向かったのです。
しかし!
このクレームは想像できないくらい大きなクレームとなったのです。
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