繁忙期になると宅配便業界では多くのアルバイトさんを募集します。
毎回、繁忙期はネタの宝庫で、楽しい事が満載なんですけど
いやぁ、とんでもないヤツもいるもんですよ。
それは、他社のアルバイトさんだったんだけど
会う度にいつもボクをライバル視しているんですよね。
ボクの事もアルバイトだと思っているんでしょう。
「絶対テメェには負けねぇ…」
そんな感じで、敵意むき出しなんです。
自分の方が配達するのが速いんだとでも言いたいんでしょうかね~。
コイツは、宅配便の仕事を「宅配レース」と勘違いしているみたいで
誰か他社の配達員がいると、いろいろと妨害してくるんです。
そう、まるでチキチキマシン大レースみたいに。
なんだか風貌が「ゴリラ」に似てたから
配達員たちは「ゴリ」と呼んでいました。
————–2005/07/18 発行 第39号———————–
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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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『ゴリラはダンプカーで配達』
他社の配達員でも、同じエリアを担当していると、
毎日だいたい、同じコースになるんですよね。
だから、ゴリとも毎日会うんですけれど
コイツは、妨害してくるからマンションとかで会いたくないんです。
例えば、同じマンションで配達が一緒になった時にやられたのは
エレベーターのボタン全部押されちゃって各階止まりにされたんです。
これが高層マンションだったりすると大変ですよ。
あとは、ボクのクルマが出られないように自分の車を停めておくとか。
まるで小学生のいたずらですよ。
だから、高層マンションなどは
ゴリとは会わない時間帯に行くようにしているんです。
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そんなある日の配達。
普段だったら午前中に行かない巨大マンションに行く途中で
ゴリのクルマを見かけたのです。
(くそう…こんなところで)
幸いゴリはまだ配達中のようでクルマを離れているようです。
チャンス!ボクは急いでクルマを走らせました。
なぜ急ぐのか?
それには理由があるんです。
そう、この先のマンションは高層マンションなのに
エレベーターが少なく、ただでさえ時間がかかるうえに
マンションの敷地内にはクルマの乗り入れが禁止となっているからです。
周辺道路は幹線道路でクルマを駐車すると渋滞を引き起こしてしまうため
マンション専用の駐車場に入れなければならないのです。
しかもその専用駐車場スペースはたった1台のみ!
そんなわけで、いつもはこのマンションは時間節約のために、
午後の配達にしているのですが
今日は運悪く午前中の時間指定があったのです。
しかも最上階。
こんなところで「チキチキマシン」やられたらたまらん!
いったいどれくらいの時間をロスしてしまうのか判ったもんじゃない。
急がなければ!
しかしこういうときに限って信号に捕まってしまうんですよね。
そうこうしているうちに、バックミラーにゴリのクルマが。
(まずい。くそう…アイツより後だと
またエレベーター各階止まりにされてしまう)
ゴリは、マンションまでの途中の配達も無いようで、
信号にも捕まらずどんどん迫って来ます。
バックミラーに映るゴリのクルマが大きくなる。
ゴリも「絶対アイツより先に!」と思っているはずです。
「ケケケ!またエレベーター各階止まり作戦やってやるぜ」
そんな声が聞こえてきそうです。
ここまで来て負けられるかっ!
マンションの駐車場に入る脇道は、すぐそこだ。
行けぇぇーっ!
ゴリのクルマがすぐそこまで迫って来ている。
ボクは脇道にハンドルを切る。
キュキュッ!とタイヤがわずかに鳴る。
入った…。
やった。
マンションに続くこの専用道路は、
急な坂道ですから、荷物の積み下ろしは出来ません。
それは、あまりにも急坂のために荷物を下ろそうとドアを開けると
荷台から品物が崩れ落ちてしまうからです。
ゴリ…。
キミは幹線道路にクルマを停めて渋滞を引き起こし
クラクションの嵐を浴びながら、延々と歩きなさい。
ふっふっふっ。
はっはっはっ!!
ボクの勝ちだ。
ゴリ君、残念だったね。
キミのエレベーター各階止まり作戦は失敗したのだ。
ボクは安心して、荷台から荷物を取り出しました。
今日の品物はビールギフトが2つ。
時間にも余裕がある。
さて、ゆっくりと配達に行こうじゃないか。
そう思った時、「バンッ!」とドアを閉める音が聞こえたのです。
(何ッ?)
なんとマンションの入り口の急坂にゴリのクルマが停まっている!
そしてクルマの陰からゴリが現れて
「フフン」と不敵な笑みを浮かべたのです。
(あ、あんなところに!)
くそう…やられた。
まさか、こんな急坂のマンションの入り口の真ん前に停めるとは。
荷物はあらかじめ助手席にでも積んでいたのか?
いや、グズグズしていられない!
ゴリより早くエレベーターをゲットしなければっ!
ボクは、マンションの入り口に向かって走りだしました。
不敵な笑みを浮かべていたゴリも、考えは同じだったようです。
ボクが走り出したのを見て、慌ててバックドアに手をかけたのです。
(まさかッ…??)
何故だッ?
キミも山のように荷物積んでいるじゃないか!
こんな急坂でバックドアを開けたら荷物が崩れるのは明白じゃないか!
捨て身の作戦に出たのか?
ゴリは今まさにバックドアを開けようとしています。
早く!
ゴリのクルマを回り込む。
もうすぐそこに入り口だ。
あと7歩で飛び込める。
そしてゴリの手がバックドアのドアノブに掛かる。
(待て!やめろ!絶対荷物崩れるぞ)
ゴリが荷物を崩しても知ったこっちゃないですが
実際に崩れたら、ボクの性格では見て見ぬ振りが出来ない。
ゴリがドアを開ける前に、何としても入り口に飛び込みたい!
あと5歩だ。
カチ…。
ゴリがバックドアを開けた。
(バカがッ!)
その瞬間、ゴリが開けたバックドアが勢いよく跳ね返った!
(うおっ!開けやがった!バカヤロウが!)
バックドアが跳ね上がり、ゴリのあごを直撃する。
「げふっ!」という変な声と共にゴリは後ろに倒れこんだ。
ガラガラッと荷台から荷物が崩れ落ちた。
お中元のビールが道路に跳ね返り中身の缶が散乱し
坂道を勢いよく転げ落ちていく。
幹線道路までコロコロ転がって
走り去る車が「パンパン」と缶を潰していきます。
(ほらみろ!言わんこっちゃ無い)
結局ボクは目の前で起きたハプニングを、見て見ぬ振りが出来ずに
慌てて、自分の配達するビールギフトを片手で抱えて
思わずバックドアを押さえました。
だが、
崩れ落ちる荷物の重みでなかなか閉まらない。
荷物は次々とバックドアの隙間から崩れ落ちる。
「ぬおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーッ!」
血管が、ブチぎれそうになるほど力を入れて、
なおも押し続けましたがバックドアは閉まらない。
(だめだ。サイドドアから荷物を前に動かさなきゃ閉まらない)
くそぉ。
ゴリはどうした?
まだ、ノビてんのか?
後ろを振り返ってみたが
いないっ!?何でだ?
首だけ回して探してみると、
ゴリは、散乱して坂道を転げ落ちる荷物を追っかけている。
何やってんだ!ドアホがッ。
「おいっ!まずこっちだ!早く押さえろ」
ボクは走るゴリに大声で呼びかけたが
ゴリは「あああ~っ!」と声をあげながら
荷物を追っかけて、どんどん坂を下っていく。
「おい!そっちは後回しだ」
しかしゴリは幹線道路にまで散らばってしまった品物を
頭を抱えて意味不明の声を出しながら追っかけているだけです。
「おい!くそゴリラ!こっちが先だってンだよ!早くしろッ!」
腕が辛い。片手でビールギフトを抱えて
もう片方の手でバックドアを押さえているんだ。
体勢も不安定だから余計に腕が疲れてくる。
状況わかってんのか、ゴリゴリゴリラァッ!!
早くこっち押さえろ。
「ふんぬーッ!ゴリラッ!もうそっちは諦めろ!」
腕の力が限界になってきた。
(早くしてくれ~、限界だ)
腕がプルプル震えだす。
「く、くそ…ゴリラァ…」
そこに騒ぎを聞きつけた管理人が現れたのです。
「どうしたの?」
管理人はボクに冷静に聞いてくるのですが、
ボクはすでに限界に達していて話す事も出来ません。
「なに?なにしてんの?」
(見りゃわかんだろーが!)
言葉を話せない分プチプチと血管が切れそうになる。
アンタも手伝ってくれよ!
「あ~だめだよ。こんな所でドア開けたら崩れちゃう…
あれ~もう崩れちゃったのぉ?」
ムッキ──ッ!
話かけるんじゃなくて手伝えってーの!
「でもさぁ、宅配便も大変だよねぇ~。この前もさぁ…」
何なんだ?何の話を始めるんだ?
た、頼むぅ…手伝っテくレヨ…。も、もう限界ダ……
感覚が無くなった腕から、ふっと力が抜けた。
その瞬間バックドアが勢いよく開いて
ボクは「げふっ」と変な声をだして荷物の雪崩に巻き込まれた。
くそゴリラ…。
お前のクルマはダンプカーじゃないだろう?
ダンプが砂利下ろすんじゃないんだから
荷台傾けてドア開けるなよ…
コメント
新しい年も大忙しでしょうか。なんとなく宅配の方に親近感を覚えるようになりました。
雪の被害はどうですか?豪雪地帯はどうなってるんでしょうね。さすがに無理ですよね。
ほのぼの楽しいお話も聞かせてくださいね。
コロコロさん、こんばんは~。
関東でも雪が降りましたねぇ。
コロコロさんの住んでいるところでは大丈夫でしたか?
こちらは久しぶりの雪だったのでアパートの配達で外階段が凍っていて怖かったですよ。
今年は雪がすごいですよね。
新潟の方は大丈夫でしょうか?
心配ですね。
寒い日が続いていますが体調に気をつけてくださいね☆