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vol.40 『切り裂かれた宅配便』

 届け先が、アパートやマンションだったりする時には
 部屋の番号まで記載されていない場合が多いですね。
 こういうときは現地で確認したりするのですが
 表札が出ていればいいですが、最近は表札を出していない家が多く
 (アパートやマンションなどだと特に!)
 こうした確認作業に時間がかかり配達が遅くなる事があります。
 それに、住所が合っていても部屋番号が記載されていないために
 住所不明で、贈り主に返される場合もあるのです。
 そういう事態を防ぐためにも
 皆さん、住所はキチンとマンション名や部屋番号まで書きましょうね。
 ま、もちろん現地調査などで表札の有無や
 表札が違っていても、そのお宅に確認したりしますけどね。
 今回は、そんな現地確認中に起こった事件です。
 なんと警察まで出動してしまいました。
 
 
————–2005/08/15 発行 第40号———————–
 


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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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 『切り裂かれた宅配便』
 「えーとですね、こちらのアパートに
  こういう方はいらっしゃるかお伺いしたいんですけれど…」
 配達も終了に近い、繁忙期のある日の夜でした。
 住所不明の荷物の調査で、ボクは、とあるアパートに来ていたのです。
 伝票の住所はこのアパートでしたが、部屋番号がありませんでした。
 仕方なく、現地調査のためにここまで来たのですが…。
 夏だというのに、すでに辺りは暗くなっていて
 表札に書いてあるだろう名前が読めなくなっていて困っていたのです。
 そこに現れたのが、このアパートの大家さんでした。
 ここの1階に住んでいるそうです。
 
 そうか、大家さんなら知っているはずだ、と思って
 ボクは伝票を見せて聞いてみたのです。
 「そんな人、居たかいなぁ?」
 80歳くらいのおばあちゃんだったけれど
 ちゃんと受け答えしてくれていたし「ちょっと待ってね」と家の中に
 荷物を持って入っていった時も、特に不思議とは思わなかったのです。
 ま、玄関をきっちりと閉める時に、
 ボクの顔をしかめっ面で見ていたのは多少気になったのですが…。
 ところが、家の中へ入ったっきり全然出て来ないのです。
 あまりにも時間が掛かり過ぎていました。
 部屋の中で、
 入居者の名前が書いてある帳面でも見てくれているのでしょうが
 まったく物音もしないのです。
 玄関はきっちり閉めて行ってしまったので、様子を伺うことも出来ません。
 仕方がないので、チャイムを押してみますが反応はありません。
 ノックをして「あの、大家さぁん?もういいですよ~」と呼びかけても
 まったく反応はありません。
 最初のうちは、
 (一生懸命に調べてくれてるのかな?)と考えていましたが
 あまりにも出てこないので、ボクも焦ってきます。
 何せ、今日中に配達しなければならない荷物がまだあるのですから。
 何度目かに呼んだ時に、突然後ろから声を掛けられました。
 振り向くと若い女性です。会社の帰りでしょうか?
 紺色のスーツに髪を後ろで束ねた20歳くらいの女性でした。
 「あの~…何か?」
 「あ、こちらの方ですか?」
 「そう…ですけど、何か?」
 「えーとですねぇ、このアパートに住んでいる人の事で、
  大家さんに……あ、こちら大家さんですよね?
  で、大家さんに聞こうと思ったんですが、おばあ…いや、
  その、荷物持ったまま家に入っちゃって出てこないんです」
 「はぁ?」
 「あ、すみません。ボクは宅配便の配達員なんですけど、
  大家さんが、ボクの荷物を持って中に入ったきり出てこないんです」
 宅配便って単純な仕事なんだけれど
 この状況を説明するのは難しい。
 世の中の人は、住所不明なんて考えてないし、
 宅配便が迷うわけないと思っている事が多々あるからです。
 「変な事、言わないでください」
 「は?変な事?…そんな事言ってないですが?」
 「とにかくウチは何も買いませんから!他に行ってください」
 「な…!いや、そうじゃなくてですね」
 どうも、説明が下手だったようで、
 押し売りか何かと間違えているようです
 「いやボクは宅配便なんですよ。
  このアパートの住所で荷物があるんですけれど、
  部屋の番号が書いてなくて、部屋が判らないから
  大家さんに聞きに来たんです。
  でも、その荷物を持ったまま大家さんが出て来ないんです。
  荷物を返してくれれば帰りますよ。」
 ところが、この若い女性は「バッカじゃないの?警察呼びます」
 と言って「バンッ」とドアを閉めて中に入ったのです。
 
 そして玄関の中から大声で言ったのです。
 「変な言いがかりつけないでください!まるでうちのおばあちゃんが
  ボケているみたいじゃないですかッ。
  それにウチには宅配便なんて来ませんから」
 そんな事言ってないじゃないか。
 聞きに来ただけだって言ってるじゃん!
 しかし…困った。
 どうにかして、荷物を返してもらわないと…。
 もう一度、チャイムを押して呼び出します。
 「すみませ~ん!○○の宅配便なんですけど、荷物を~…」
 「いいかげんにしてくださいッ!なんの恨みがあるんですか?
  今、警察呼びましたからッ!」
 「は?警察?いや、荷物を返してくれれば帰りますよ!」
 「そんな荷物は無いッ!」
 「いや、おばあちゃんが持ってるんですよ」
 「おばあちゃんは、知らないって言ってます!」
 「いや、ちゃんと聞いてくれてるんですか?」
 水掛け論です。
 マジで困った。
 玄関先で大声をあげ続けるワケにもいかず、
 どうするかと悩んでいた時に後ろから声を掛けられたのです。
 「だんなさん、○○警察なんだけどね、ちょっといいかな?」
 早ッ!マジで警察呼びやがった!
 それならそうでいいや。こっちは悪くない。
 「あのですね、ここのおばあちゃんが
  他の家の荷物を持って中に入っちゃったんですよ」
 「荷物?」
 また、始めから説明か…。ふう…。
 「そうです。こちら、このアパートの大家でしょ?
  このアパートの住所に荷物があったけど
  部屋番号が書いてないんですよ。
  だから大家に確認したいと思って聞いたんだけど、
  そのまま荷物持ってっちゃったんです」
 「荷物を?だけど、通報では押し売りだって話だよ?」
 「だーかーらー!それはここの娘さんが勝手に思い込んでるんですよ!
  ボクは荷物を返してもらえれば帰ります」
 「いや~、そういうわけにいかないんだよね。
  だんなさんも自分のやってる事わかってるでしょ?
  交番で話聞かせてもらえるかな?」
 「何言ってンすか?え?押し売りじゃねぇって言ってンじゃん!
  『自分のやってる事わかるでしょ』って何?
  宅配便ですよ!ウチの荷物を取られたんだよ!」
 「あ~、わかったわかった。落ち着いて。
  ま、こんなところで騒いでもしょうがないから
  パトカーの中で話聞くから」
 「なんでよ?」
 もう頭にかっかっと血が上ってきます。
 どうしてみんな話がわからないんだよ
 結局、パトカーの中で事情聴取しました。
 通行人の好奇の視線を浴びながら。
 パトカーの中でも、さっきと同じように押し問答です。
 どんどん時間は過ぎていきます。
 (まずい。最後に廻した家は、昨日うるさい事言っていた家だ)
 とにかく早くこの状況を解決して配達に行かなければクレームだ。
 そうだ!伝票だ。
 ボクは警官に伝票を見せました。
 「ほら!ここの住所でしょう?ここに配達に来たことは間違いないです。
  おばあちゃんが持って行っちゃった荷物を戻してくれれば帰りますよ」
 「う~ん、そうだねぇ。じゃあ確認してみるから」
 だからそれをさっさとやってくれって言ってたんでしょうに。
 まったく…ムカムカするなぁ。
 やっと警官は大家さんの家に事情聴取に行ってくれました。
 ボクはそれでもパトカーから降ろしてもらえなかったけど
 大家の玄関先で何やら話を聞いていた警官は、
 しばらくすると白い箱を抱えて戻って来ました。
 「だんなさん。あなたの言ってる荷物ってコレかい?」
 「いや、それじゃないですよ。
  ○○デパートの包みでこのくらいの大きさの箱……。箱…??」
 ボクは、バッと伝票を見直す。
 『品名:○○特選バームクーヘン』
 え…?
 そうです、箱にも○○デパート特選バームクーヘンと…書いてある。
 と、いう事は……ま、まさか…。
 でええぇぇぇ───ッ!!!
 開けちゃってるって事ォ!?
 マジかよ!
 そこに警官から控えめな一言が。
 「あのね、一応中身確認してくれるかな」
 中身…。
 中身って言ったってボクは包装紙に包まれた荷物は知ってるけど
 中身確認したってわからないよ。
 そう警官に言うと、警官は言いにくそうに
 「ま、一応だから…確認して。ね。」
 そう言われて中身を確認すると中から出てきたのは
 キレイに半分に切られたバームクーヘン!
 しかも半分だけ!
 の、残りは?
 「いや、そのね、ばあちゃん食っちゃったらしいんだよね…」
 
 なんだとぅッ?
 大家の家を振り返ると、
 わずかに開いた玄関からさっきの女性が覗いていて
 目が合うと、バンッとドアを閉めたのでした。
 くそ…。アンタもバームクーヘン食ったろ…。



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