ある商店街の中にある携帯ショップ。
実はこのお店、配送業者の間では超有名なお店なんです。
携帯が他のお店と比べてメチャクチャ安いとか
サービスがすごく良いとか、そんな理由じゃないんです。
じゃ、何が?
正確にいうと、そのお店が問題なんじゃなくて
働いている従業員が超有名なんです。
ま、この辺を配送している業者で知らない人はいないでしょうね。
その理由とは…
「性格がキッツイ!!」
なんです。
それもタダモノじゃないくらいキツイんです。
商店街の配達は、不在も無いですし
一般住宅のようにチャイムを押してから待つという時間もありません。
しかも配達先が軒並みですから早く配達できます。
本来ならね…。
しかし、駅前というのは往々にして路上駐車が多く
人通りやクルマも多いですよね?
だから配送する時には苦労します。
なかなかクルマを停める事が出来ずに、
かなり離れた所に停めるしかない場合も多いのです。
しかし…その駅前で、いつも1箇所だけクルマを停めるスペースが
空いている所があるのです。
それが、前述した携帯ショップの前です。
しかし誰も停めません。
何故ならその場所にクルマを駐車すると大変な事になるからなんです。
————–2005/10/22 発行 第47号———————–
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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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『バトル!般若の制服美人』
初めて停めた時の事は忘れられません。
ボクは携帯ショップの隣のお店に配達があったのです。
駅前なのにその場所が空いていたので迷わずにクルマを停めて
荷物を降ろしはじめました。
クルマのバックドアを開けて頭を突っ込んで荷物を探していると
なにやらどうもクルマが揺れている気がするのです。
(あれ?地震か?)
ゆっくりした横揺れのような感じ。
あまり長く続くので、ボクは荷物を出すのを止めて
クルマの外に顔を出しました。
すると驚きの光景が目に入ったのです。
なんと、制服を着た女性がボクのクルマの横に立って
クルマを揺らしていたのです。
しかもその表情は鬼の形相で、ボクを睨みつけながら揺らしています。
一瞬たじろぎました…。
だって、普通じゃない形相してたんですよ。
顔を少し傾けながら上目遣いで睨んでるんです。
しかも顔中の筋肉をこれでもかッというくらいに力を入れて。
(こ、怖ッ!)
マジで、あんなに怖い形相の女性は初めて見ました。
目が合っても表情はそのままで、
クルマをグイグイ揺らし続けているんです。
「え…っと、な、何か?」
やっと一言を発せたくらいにビビッているボク。
情けないくらい怯んでいました。
すると彼女がピタッと動きを止めたのです。
…驚きました。
たぶんこの瞬間をテレビとか映像で見ていたなら
間違いなくCGだと思った事でしょう。
鬼の形相からスローモーションのように普通の(っていうのかな?)
普通の怒っている顔に変わっていったのです。
その顔は人並み以上にカワイイ顔だったので
さっきまでの形相は想像すらできません。
そして彼女は言いました。
「ここにクルマ停めんじゃねぇッっていってんだよッ!ええッ!!」
うおっ!なんじゃそりゃ~?
いきなりケンカ口調かよ?
「マジで殺すよ、ニイチャンよ~」
何ッ?コロス??
何がどうしてそうなるの?
しかも顔が…マジで怖えぇ~。
さっきの形相になってきてるし。
さっきとは逆のスローモーションで顔が鬼に変わっていくんですよ。
ううう~っ!うおっ!鳥肌!!
全身にざざざっと鳥肌が立ちました。
こんな真昼間に商店街の片隅のクルマの影で
こんなにボクがビビッているなどと誰も想像しないでしょう。
いや、いました。
他社の配達員が遠くでボクを見ていたのです。
なにやら手で何かを払う仕草を盛んにしていました。
意味がわからないけど、とりあえず今はクルマをどかそう。
「スミマセン。隣に配達に来たんですけど…すぐどかします」
「隣もへったくれもあるか!さっさとどかせッ!」
「ハイッ!」
ううむ…。
大の男がこんなにビビッて情けない。
しかし、原因がこっちにあるのだろうから仕方ない。
クルマを移動しようと思ったけど
なかなか停める所はないんですよねぇ。
仕方なくクルマを走らせて、かなり離れた場所に停めました。
荷物を取り出して配達先に向かって歩いていると
さっき何かを払う仕草をしていた配達員と会いました。
その配達員はボクを見つけると走り寄ってきました。
「いやいやいや、驚きですよ。あそこに停めるなんて…。
一生懸命『どかせ!どかせ!』って言ってたのに」
あぁ、それが何かを払う仕草か…。
「え?なんかあるの?」
「あ~、知らなかったんだ。有名なんですよ、さっきの彼女」
「あの人?超怖え~よ。なんなの?」
「クルマですよ、店の前に停めると豹変するんですよ」
「あぁ、そういえばここに停めんじゃねぇって怒鳴られた」
話を聞くと、彼女は店の前にクルマを停められる事で
異常な怒り方をするらしいという事がわかりました。
ほら、よく店の前に『ノボリ』が立ってるじゃないですか。
あれを台ごとクルマに投げつけたり、
タイヤにドライバーを刺したりするくらいメチャメチャらしいのです。
そんな事が配達員の間ではすでに有名な話になっていて
誰もあの携帯ショップ前には停めないそうなんです。
「全然、知らなかった」
「そうかも。だって彼女が入社したの1週間前だもん」
「そんな最近?それなのに有名な話なの?」
「あそこは(携帯ショップの隣)納品多いじゃないですか?」
「うん」
「だからあの携帯屋の前に停めてみんなやられてるんです」
え?みんなって…。まだ1週間でしょ?
たった1週間で、配送業者に恐れられる存在になるとは…
「いや、マジで凄過ぎですって。俺もやられたんスから」
「へえぇ~、どんな事?」
「納品があったんスよ、あの携帯屋にね。それなのに…」
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その日彼は、例の携帯ショップに納品があったそうです。
すでに他の配達員から携帯ショップの彼女の噂を聞いていた彼は
最初は他の場所に停めようと考えていたそうです。
でもよく考えてみると、
他でもないその携帯ショップへの納品じゃないですか。
だから彼は安心して携帯ショップの前にクルマを寄せていったそうです。
その時の彼の気持ちはよくわかります。
今まで入れなかった禁断の場所のパスを手に入れた気分だったでしょう。
停めたとたんに現れる携帯ショップの彼女。
しかし、今日の彼は笑顔でこう言うんです。
「こんにちは~。ここにお届け物です」
すると彼女の表情は一変し、笑顔でご苦労様と答える…。
そんな想像もしていたでしょう。
しかし…相手が悪かった。
彼の考えはもろくも崩れ去る事になったのです。
クルマを停める前から、携帯ショップの奥から飛び出してくる彼女。
手にはモップ。どうやら掃除をしていたらしいです。
彼はすかさず窓を空けて「こんにちは」と先制攻撃をしたそうです。
ところが、次の言葉を発する前に彼女は無言のまま、
いきなり手に持ったモップを彼の顔に押し付けたのです!
(ドラマじゃあるまいし、そんな事あるのかよ~)
あまりにも想像できないその展開に
彼はアクセルを踏み込んでしまったそうです。
そして携帯ショップの横にあるゴミの集積箱に
激突してしまったのです。
幸い、そんなにスピードも出ておらず
彼も怪我をする事はなく、クルマも集積箱も無事だったようですが…。
顔中モップの水で濡れながらもドアを開けてクルマを降りると
彼女が錫杖のようにモップを立てて仁王立ちしていたそうです。
「あ、あの…(荷物を…)」
彼が言い終わらないうちに
「てめぇ…、ふざけた真似してるじゃねぇか…えぇ?」
「い、いや納品なん…ですけど…」
彼もまた、この時初めて彼女の顔を見たそうです。
その表情に驚き、モップで顔を突かれた痛みとで
その展開に対応できないでいたのです。
「ゴミ箱まで壊しやがって…金置いてさっさと消えろッ!」
「え?金?」
彼は、何の事かわからずに聞くと
「ゴミ箱の修理代だよ。目ぇ付いてねぇのかテメェは!」
「はぁ?こっちは納品に来てやったんじゃねぇか!
てめえこそ何なんだコラ!!」
やっと自分を取り戻した彼はキレてしまったそうですよ。
う~ん当然といえば当然かなと…。
彼は怒りながらクルマから荷物を出して「ホラッこれだよ!」と
彼女に投げたそうですが、彼女はその荷物をクルマの向こうへと
放り投げてしまったのでした。
「いい度胸してンじゃねぇかよ、えぇ!表出ろッ!」
…彼女の言葉です。
信じられません。お店の人でしょ?いい度胸って何が??
彼女の大声でお店の奥にいた従業員が駆け出してきたそうです。
そしてひたすらに彼に謝り彼女を奥へ連れて行ったのです。
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「どうも、そういう性格だって知ってるみたいスよ。店のヤツは」
じゃ、なんで使ってるんだろうね?
客商売なのにさ。
「さぁ?とにかく相手にしてらんないス。
ウチにあそこの納品が来ると着払いで他の業者にまわしてますよ」
ほほう。
なるほどね、そんな手があったのか。
「その代わり、他からもまわってきますけどね。
どこも相手にしてないんじゃないすか?
俺たちゃ彼女の奴隷じゃないんスから」
「それでその後はどうなったの?」
「あぁ、店のヤツに彼女が荷物投げたって言って俺はそれきりです。
会社にもクレームは入らなかったそうっスよ」
「へえぇ。クレームにならなかったの?」
「なるわけないじゃないスか!あっちが悪いのに」
まだまだ話を聞いていたかったのですが
お互い仕事の途中だったので、そこで別れました。
ボクはその携帯ショップの隣に配達があったので
そこへ向かいました。
すると…
携帯ショップの前に、今まさに停めようとしている乗用車が!
クルマはBMW。何処かの奥様みたいです。
(出るぞ…出るぞ…)
そう思っていたら、すごい勢いで彼女が出て来ました。
そしてBMWになんとドライバーでギリギリと傷を付け始めたのです!!
まだクルマの中に人がいるんですよ!?
それなのに、そんな事お構いなしでギリギリギィィ──ッ!って…。
これ、本当の話なんですよ。
みなさんは信じられますか?彼女の行動。
当然BMWの運転手(何処かの奥様)は怒りまくっていました。
その後…2日後だったかな?
その携帯ショップの前に、某有名宅配業者のクルマが停まっていました。
あ~ぁ、やられるぞ…と思ったのですが
その時すでに、彼女は辞めていたそうです。
いや、辞めさせられたんでしょうね。
いくらなんでも酷過ぎますからね~。