荷物を配達すると、嬉しい事に
たまに「チップ」をいただける事があるんです。
金額言っちゃうと、いやらしいですが、
500円とかくれる人が多いですね。
「ごくろうさま。これでジュースでも飲んで!」
そんな風な言葉と一緒にチップを渡してくれるんですが
チップよりも、あたたかい言葉をかけてくれるのが嬉しいですよね。
ま、最近は通販全盛期みたいな感じで
宅配便=通販商品みたいな図式になっていますから
チップをいただける事も少なくなりましたけどね。
だって通販頼む時って送料無料のところを選ぶのも
賢い買い方ですもんね。チップ渡したら意味ないですもん。
ただ、家具のような大型商品だと
チップをいただける確率も高いです。
そう、今回はチップにまつわるお話です。
————–2005/06/15 発行 第55号———————–
======================================
■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
======================================
『謝恩会エレジー』
その日の工場長は上機嫌でした。
いつもなら、仕事が終わると
さっさと更衣室に直行して、帰る準備をするのに
その日は、帰ってくるなりデポのみんなを集めて言ったのです。
「予定が無い人は残ってくださいねぇ!」
なんだよ、いきなり。
本社に行って、なんか情報掴んできたとでもいうのかい?
工場長は大型家具などの運搬専用の配達をしています。
以前にもお話しましたが、
彼はその手先の器用さから工場長と呼ばれています。
大型家具は、デポ内に置いておけない商品もあるので
家具の運搬専門の工場長は
本社の配送センターに毎日寄るシフトになっています。
なので、そこで何か重要な情報でも仕入れてきたのかと思ったのです。
ところが、工場長はしきりに時計を気にしています。
それに、気持ち悪いくらい上機嫌です。
デポにいる他の配達員も事情が飲み込めずに
ただ、工場長の言いなりでイスに座って
工場長が何を話すのか待っていました。
しばらくするとデポの中に寿司屋の出前のバイクが入ってきました。
「お~!時間通り!」
バイクを見て工場長は嬉しそうにドアの方へ走っていきました。
出前のバイクがデポの事務所のドアに横付けされるやいなや、
工場長は大きな声で
「ど~も!すみませんね、時間指定なんかしちゃって。」
寿司屋?出前とったの?
何だかわからないけれど
工場長は、凄く上機嫌です。
寿司屋の旦那さんも、上機嫌でオカモチから寿司桶を下ろしてます。
驚くのはその量です。
一番大きいサイズじゃないかなと思うほど巨大な寿司桶が
次から次へと事務所内に運び込まれてきたのです。
その数なんと5つ!
いつも「金が無ぇ、金が無ぇ」と嘆いている工場長なのに
一体どうしたというのでしょう?
ニコニコ顔で支払いを済ませて、事務所内に入った工場長に
みんなが一斉に問いかけました。
「どうしたんだ?寿司なんかとって?」
「おいおい、自分で送別会でも開こうってのか?」
「なんか…気味悪いな。」
「本社で貰ったデポ費、使い込むつもりか?」
そんなこんなを言われても工場長はニコニコしています。
そして、まぁまぁと言わんばかりに両手を広げて
みんなを制止しました。
「え~、本日はお疲れ様でした!
今日は、日頃お世話になってる皆様に、
僕からささやかなお返しをしたいと思って
残っていただきました」
「だから、何なんだよ?この寿司は?」
「いや、お世話になってるお返しで…」
「お前がこんなに金持ってるわけねぇだろ?」
「へへへ…。実は○○さんにチップ貰っちゃって」
○○さんというのは、ボクの配達エリアのお客さんです。
このお客さんは、もの凄いんです。
何が、もの凄いのか?
例えば。
通販で品物を買うとします。
すると、大抵の場合、
届いた品物には「オススメ」の商品が載ったカタログも同封されてきます。
このお客さんの凄いところは、
そのカタログに載っている物ほとんど全てを買ってしまうのです。
ほとんど全てっすよ!?
そして、お客さんの口癖はこうです。
「また買い尽くしたわねぇ。次のシーズン早く来ないかしら」
通販カタログって年に4回とか来ますよね?
そのワンシーズンの商品を買い尽くして
次のカタログが配布されるのを待ってるのです。
どうっすか?
凄過ぎでしょ?
さらに武勇伝は続きます。
カタログにある商品を、ほとんど全て買い尽くすわけですから
配達もハンパじゃありません。
毎日のように品物が届き、毎日のように配達しているのです。
そして配達するたびに「チップ」をくれるのです。
しかも!そのチップの金額が変わってる。
例えば1万5000円の代金引換の品物を届けたとします。
すると2万1000円を渡してくるのです。
変でしょ?
最初は、いろいろ計算してみたりしましたよ。
どうにか区切りのいいお釣り銭になるのかなと。
でも、そうじゃなかったんです。
必ず、「一万円札を出して、プラス千円を渡す」のです。
そして、お釣り(今回の場合は)6000円を…
なんとチップとしてくれちゃうんです!!!
21000円
-15000円
───────
6000円
19800円でも、1200円…。
もちろん断りますよ。
だけど…だけど、断るたびに
「え~、じゃもう買わない!これはあなたに対してのお礼なの」
なんて言われちゃうんです。
それでも、いらない受取れないと言うと
デポまで届けにきちゃうんですよ!
凄過ぎ…。
ただし!
このお客さんの配達は条件があります。
『配達は必ず午前11:00から15分まで。
品物があるときは10:00までに連絡。』
という決まり事があるのです。
これさえ守れば、いつも機嫌よく対応してくれますが
事前連絡をしないと怒りの電話がデポに入ります…。
正直、15分単位の時間指定は厳しいですが
チップをもらうためなら…
いやいや!それさえ守れば完了するわけですし、
ま…もちろん…チップももらえるわけですし…。ハイ。
話を工場長に戻しましょう^^;
そう、今日工場長はそのお客さんの所に配達に行ったんだそうです。
やはり、通販のお洒落なサイドボードを届けるために。
工場長も、そのお客さんの噂は知っていたのですが、
配達は初めてだったそうです。
今日の代金は、8万3000円。
工場長の期待は高まりました。
何といっても、そのお客さんの方程式でいけば
9万円プラス千円を渡されて、お釣りは8000円。
そしてそれがチップになる!!
…こんなヨコシマな考えはイケナイですけど
やっぱり、期待しちゃうんでしょうねぇ。
8000円あれば、ホカ弁を16回も食べられますからね。
ま、工場長の場合はクルマのパーツ代に消えるんだろうけど。
ただ、気になるのは配達に行った時に
何だか不機嫌に迎えられた事です。
朝、電話したにもかかわらず
頼んだ覚えはないんだけど…そう言われたそうです。
しかし、お客さんも何を買ったのかわからないくらいなので
首を傾げながらも、設置場所を指示したそうです。
なんだか不機嫌な気分にさせたようでチップは諦めたそうですが、
無事に家具の設置も完了して代金の受け渡しになると、
お客さんから渡されたのは…
『10万1000円』
へ?
10万と千円?
なんで?
9万1000円じゃないの?(いや、それも普通じゃないけど(笑))
しばらく頭を捻らせて考えてもわからなかったので
工場長は、確認したそうです。
「え~と…。8万3000円なんですが…。ちょっと多い…」
「こんなに重い物を運んでもらったのだからいいのよ。
ビールでも買って。」
そう言われても金額が大きすぎるので
躊躇はしたそうですが…
こうして目の前に、お寿司があるわけですから…
貰っちゃったという事だよね、工場長。
「それでお前、寿司の出前取ったっつーのかよ」
「はい!自分一人でチップ貰うの悪くって…」
「だけど…金額大きすぎねぇか?大丈夫か?」
「はい!大丈夫です。みなさんどうぞ!」
そんなわけで皆一斉に、お寿司を頂き始めました。
ま、多少(いいのかなぁ)という不安もありましたが
目の前の食欲には、何も敵わないのです(笑)
工場長は、結婚式の新郎新婦の親みたいに
寿司に、むしゃぶりついている先輩配達員に
ジュースのお酌をして廻っていました。
しかし…悪夢はすぐそこに迫っていたのです。
工場長が、お寿司を小皿に取り
電話番の事務員に渡そうとした時に、悲劇は幕を開けました。
「○○さん(事務員)も、どうぞ!」
工場長が、そう言った時に電話が鳴りました。
…クレームです。
自分が悪いわけでもないのに、
電話を受けた事務員は、申し訳無さそうに言いました。
「え~と…。
商品配送の問い合わせなんですけど…
あの…その……
今日配達予定の荷物が届かないと…。
8万3000円のサイドボードが、まだ届いていないと…。
朝、電話があったのに、何故まだ届かないんだと…。」
皆の寿司を持つ手が一斉に止まりました。
そして、皆ゆっくりと工場長に目を向けます。
一気に重苦しくなったデポ内に
事務員の申し訳無さそうな言葉が続きました。
「△△さんっていうお客さんですぅ…」
チップのお客さんと同姓です…。
配達員の一人が、サイドボードの完了伝票を確認します。
「…チップの○○さんと近所だよ。誤配…か?」
泣きそうな顔の工場長が、
寿司の皿とジュースを両手に持って、立ち尽くしていました。
◇編集後記
工場長は『誤配』してしまったんですねぇ。
朝、電話かけたのは、正しい配達先ですよね。
注文書を見て電話しているのですから、当たり前です。
しかし、有名なチップのお客さんと近い住所だったことから
工場長は、すっかり勘違いして配達してしまったわけです。
チップの事ばかり考えていたからでしょうか。
同姓で住所が近い事での、完全な思い込みによる誤配。
普通、家具など大型商品ではこんな誤配はありえないのですが
カタログを買い尽くすくらいのお客さんの家に
運悪く誤配したために、お客さんも気がつけなかった。
そんな事件でした。
いやぁ、あの後はデポ中真っ青になりながら
全員で誤配の処理にあたりました。
チップの行方ですが…
工場長は泣きべそをかきながら、
必死で謝りながらお客さんに返したのでした。
コメント
宅配業って辛いと思ってたんですけど、チップがもらえるなんて意外といいこともあるんですねΣ(゜ロ゜;)
今回の内容みて結構びっくりでした。
しかも今回の落ち最高でした!!
他の内容も見させてもらいます。
>まっすさん
こんばんは!
本当に…工場長はお気の毒(^_^;)
偶然が重なって最悪になっちゃいました。
他のエピソードも、ぜひ読んでくださいね♪
「ブログの女王」を見てきました!
工場長・・・・(涙)
つい最近ママとチップについて話してたんです!
私は外人なんでチップは当たり前だと思っていたけど、日本ではまだなかなかそうゆう習慣がないですよね(・_・;)
それで気になったんですけど、基本的にチップを受け取ってはいけないんですか?
>ひかりさん
こんばんは!アクセスありがとうございます。
工場長…悲惨ですね(笑)
チップっていう習慣は…やっぱり、あんまり無いのかなぁ?
ま、でも受け取ってはいけないって事は無いと思いますよ♪ボクは遠慮しながら貰っちゃいます。今回のエピソードのようなお客さんは他にはいないですけど、例えば「米」みたいな重い荷物をマンションの高層階に届けた時には、チップをよくもらいます(^^♪
これからもよろしくお願いします。