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vol.12 『師匠登場!』

宅配 って、仕事中は基本的にひとりぼっちの仕事だから孤独なんですよ。
だからなのかな?
配達員って一癖も二癖もある気難しい人が多いんです。
そんな中でボクの師匠は、一層異彩を放っています。
いやいや、頑固ですぐ怒るとかそういった事ではなくて
スゴイ人なのにいつも、ひょうひょうとしているんです。
笑える失敗なんて数しれず!
いつでも明るくポジティブで、そのくせ奥さんに頭が上がらない。
おまたせしました!
ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たちの師匠登場です!


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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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『師匠登場!』
デポが合併したんですよ。
不況だからなのか何なのか当時の事はよくわからないけど。
それで今まで違う職場だった師匠と同じデポになったんです。
初めて会った時の第一印象は
(なんだコイツ。チャラチャラしてる奴だなぁ)
そんな感じを持ちました。
朝は毎日寝坊だし、出発するのは遅いし
それなのにボクが配達から帰って来ると、師匠はすでに帰宅済み。
いつもゲラゲラ笑ってて、デポの中で鬼ごっこしたり…。
いい大人なんですよ、50過ぎの。
毎朝うるさくて仕方なかったです。
 
好きになれなかったなぁ。
今まで周りにいなかったタイプだし、
当時のボクはまだ若くて自信過剰でしたからね。
それが何がきっかけだったのか、いつの間にか仲良くなって
仕事を教えて貰うようになったんですよねぇ。
勤務時間が短くても人の倍働いている事を知ってからだったかな?
まあ、今になったら仲良くなった理由なんてどうでもいい事なんだけど。
仲良くなってからは、そりゃあもう毎日が愉快でした。
野球が好きで趣味も合っているし
(応援するチームが違うので、熱い火花を散らしながらですが(笑))
とにかくいつもゲラゲラ笑っている人なんです。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その師匠が怒って帰って来ました。
師匠にしては珍しい事だったので、どうしたんです?と聞くと
「警察だよケーサツ!シートベルトでキップ切られたよ」
 
そう言ってプリプリ怒っています。
 
 
「配達だって言わなかったの?」
「言ったよ!だって聞きゃしねぇんだもん、若造がよ。おまけに捕まって
 いる間にもシートベルトしてねぇクルマが通ってるんだよ。同じ配達のク
 ルマでさぁ。『ほらほらアイツもしてねぇじゃん!アレも捕まえろよ!』
 って言ったら『いいんだアレは右折車線だから』なんて言ってサ、若造だ
 から『配達だ!』って言ってもゼンゼン駄目(泣)」
「残念でしたね。師匠(笑)」
「ばかっ!諦められるか!もうすぐゴールド(免許)だっつうのに(怒)」
「だってキップ切っちゃたんでしょ?」
「う……。く、くそう。くやしい!」
よほど悔しかったんでしょう。
それからしばらくの間はその話題を出しては悔しがっていました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからしばらくしたある日。
ボクと師匠は、師匠のクルマに同乗していました。
本部で会議だったので、乗せてもらっていたのです。
 
本部にはデポから師匠の配達エリアを通って行きます。
いつものように車内では冗談の飛ばしあいです。
 
師匠を見てるといつもあの懐かしいCMを思い出すんです。
松本伊代さんがカレー?のCMでケラケラ笑いながら
「だって、らっきょうが転がるんですもの!」
 
ってコマーシャル。(う…古過ぎるか)
(この人、16歳から精神年齢止まってんじゃないのか?)って。
だってホントによく笑うからなぁ。顔真っ赤にして。
ところがある地点から笑いが途切れました。
どうしたのかと思っていると、
「この先のカーブでやってたんだよ」
「何をですか?」
「シートベルトだよ!」
あぁ、この前のキップ切られた事件ね。
まだ根に持ってたんだな。
そうそう、こういう見通しのきかないカーブの先は取り締まりの
絶好ポイントだからなぁ。
「またやってたらマズイからシートベルトしてくださいよ」
 
師匠の方を見るとしっかりシートベルトしています。
 
 
「荷物積んでねぇからな。言い訳きかねぇもんな」
 
いや、そういう問題でもないけど…。ま、してるならいいや。
そしてカーブを曲がると案の定、警官の姿が。
 
「師匠、今日もやってますよ、よかったっすね。シートベルトして…」
 
……って、してないっ?!シートベルト!
なんで?さっきまでしてたじゃん?!
師匠は何か悪い事を企んでいるような顔でニヤニヤしています。
 
「ケッケッケッ!見てろーっ。若造っ!」
何考えてんだ?
また捕まっちゃうよ。ホラホラ警官が止まれって棒振ってる。
そう思っていると師匠がクルマのスピードを落とし始めました。
 
「アイツだよ。あの若造だよ。」
 
どうやら棒を振って違反車を誘導しているのが、
この前の「若造」らしいのですが、
それにしたって何でわざわざ捕まるようなマネをしなくちゃならないんだ?
まったくわからない。
さらにスピードを緩め、警官が近づいて来ると師匠は窓を開けて
そして、とびきりの笑顔で…
「ど~も~!ごくろーさんっ!」
 
 
そう言って軽く手をあげて、
ブゥ~ンとスピードを上げて通り過ぎたんです。
 
「わーはっは!ひぃ~!見た?あいつの顔!唖然としてたゼ!」
 
唖然としてるのはボクも一緒だって。
まずいよ。追っかけて来るんじゃないの?
止まれって言ってたのに。
 
「そうなのか?あ~アレ止まれって合図だったのか、知らなかったよ!」
 
知ってるくせに。
顔赤くしてヒィヒィ言って笑っています。
 
やっぱり師匠、あんた精神年齢16歳で止まってるよ。
*2004/10/29 発行 TAKUHAI ATHLETE (宅配 アスリート)第12号*



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