□前回までのあらすじ□
雪の為に交通網がマヒしてしまったある日
お客さんからの「ウチには屋根あるよ」という電話に使命感を燃やし
はじめたジョーさん。この雪の中を、配達に出掛けることを決意。
街では、あちこちでスリップしたり雪にハマってしまっているクルマで
溢れているのに本当に配達はできるのか?
そしてその相棒に選ばれてしまったボク。
そして配達先は、とんでもない場所にあった!
コークスクリューと呼ばれるその坂を通るのは、やはり無謀だった。
クルマは走行不能状態に!
そしてジョーさんは雪の中を歩いて配達すると言い出した。
雪はますます激しさを増し、ボクらの雪山踏破が始まった。
*「デポ編」バックナンバー
*「雪山編」バックナンバー
————–2005/02/26 発行 第27号———————–
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■ハンドルを握ったサルと愉快な仲間たち
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『雪山の宅配アスリート 踏破編』
歩いていくと言い出したジョーさん。
雪はどんどん降り方が激しくなってきているというのに
言い始めたら聞かないからなぁ。
はぁぁ…。クルマだったらすぐでも歩くってなったら大変だよ。
しかも雪道を荷物担いでなんて…。
そうそう、肝心の荷物は何かっていうと
なんと「ダイエットマシン」ですよ。
「ご家庭で本格的なジムのトレーニングが出来ます」ってやつ。
よくありますよね?
でもこれって30Kgくらいあるんですよ。
組み立て式だから梱包されている大きさとしては
50×50×120くらいにまとまっているけど…
…って、こんなもんもって歩けるかっ!
何考えてるんだ、まったく!
「ねぇ、ジョーさん、お客さんに電話しましょうよ~
今日は無理っすよ。でなきゃ工場長呼んで奴の4WDで
運びましょうよ~」
工場長は4WDのハイラックスサーフに乗っているんです。
あのクルマならば、ここへ助けに来てもらってついでに配達も
楽勝で可能でしょう。
でもジョーさんは、そんなことに耳を貸しません。
「ほら、さっさと行くぞ。準備しろ。」
仕方なくクルマからマシンを降ろしたのですが、滑る足元では30Kgが
さらに重く感じられてしまうことに愕然としました。
ここから配達先までは簡単に見積もっても1Kmくらいはあります。
本気で担いで配達するかと思うと気が重くなります。
「お、雪で濡れちまうな。おい、ビニール袋あったろ?あれで巻くぞ」
何ぃ?
濡れちゃうからビニールで包むのはいいけども、これから1Kmも歩くっ
ていうのにそれはないでしょ。
ビニールで包むと滑ってしまうんですよ。
だから余計な力が必要で、体感重量だって倍に感じちゃうんです。
長い距離を歩くっていうのに、ビニール巻きはキツすぎます。
でもジョーさんはさっさと巻き始めています。
……やっぱり行くのか…。
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コークスクリューを下りきった頃には
寒さと重さの為に腕の感覚は無くなっていました。
これから平坦な道が続くといっても、もう限界です。
「ジョーさんもう限界っスよ。ちょっと休みましょうよ」
しかし、ジョーさんは「休むと余計疲れる。一気に行く」と言って
そのまま行くと言います。
そして限界を通り越して、腕の筋肉も荷物を持った状態で固まってしま
った頃に、やっと目的のマンションに到着しました。
マンションの正面玄関でやっと荷物を下ろそうとしたのですが
腕が硬直していて「下ろす」という動作さえも出来ないのです。
そこでジョーさんから下ろしてもらおうとしたのですが
なんとジョーさんも腕が動かなくなっていたのです。
やっと荷物から開放されるというのに
その「下ろす」動作さえ出来なくて、しばらくの間ただ荷物を持ったまま
二人で立ち尽くしました。
少しずつ少しずつ、硬直した腕を動かして荷物を下ろし
しばしの休憩。
そしてやっとインターフォンを鳴らしました。
ところが、信じられない事が起こったのです。
インターフォンに出たお客さんに、配達に来た旨を伝えると
「ずいぶん遅いんですねぇ。電話もらってから何時間かかっているの?」
「スミマセン。雪の為にクルマが…」
「なんで?ウチには地下駐車場があるのよ?どうして雪が関係あるの?」
…地下があったって、どこでもドアがあるわけじゃないのに。
言い訳する気力もおきないし、さっさと荷物を置いて帰りたい気分でした。
しかし、本当の悲劇はここからでした。
玄関を開けて出てきたお客さんは荷物を見るなり、こう言い放ったのです。
「え?これって何?家庭用のジム?」
「はい。お電話で伝えた品物です」
ジョーさんが答えると
「これ、昨日キャンセルしたのよ」
「な!…」
ジョーさんの顔色が変わりました。
「朝、お電話で伝えたはずですが…」
「そうだけど、あなたが品物を勘違いしていると思ったのよ」
さすがのジョーさんが何か言いたそうにしてのを見て
ボクは、すかさずジョーさんの前に出て
「そうでしたか。どうもスミマセン。またよろしくお願いします」
そう言って玄関を閉めました。
ジョーさんは悔しそうな表情を浮かべています。
「柏城…。俺、ちゃんと言ったんだぜ…」
「わかってますって。さて、帰りますか」
と、言ったものの、またこの荷物を持って行くのかと思うと
気が重くなりました。
しかしジョーさんの顔色を見ていると無理にでも明るく振舞わなければ
ならないような気がしてきます。
「ラーメン食っていくか…」
「そうっすね!さっきウマそうな店ありましたよ。」
マンションを出ると多少、雪は小降りになっていました。
でも、荷物の重さが変わるわけでもなく腕をプルプルさせながら
来た道を引き返しました。
そして休憩も兼ねて、途中のラーメン屋に入りました。
やっと飯にありつける!
「いやぁ、今日は参ったっすね。ラーメン食って忘れちゃいましょう」
ジョーさんからするとボクを巻き込んでしまったという思いがあるの
でしょう。さっきから元気が無くなっていました。
そこでボクは「気にしてないよ」という態度をとって元気付けたかった
のですが、本日最後の悲劇はこんなところにありました。
あんな重い物を持って往復したために手に力が入らないのです。
「ジョーさん…箸が持てません」
見るとジョーさんも手をプルプルさせています。
たかが割り箸を持つことが出来ないのです。
目の前でウマそうに湯気をたてているラーメンをただただ見ているだけ
しか出来ないのです。
れんげさえ持てないんです。
全く何て日なんだ。
冷え切った体をラーメンで暖める事もできないのか。
ところがジョーさんが取った行動はさすがでした。
「おっちゃん、ストローくれる?」
ジョーさんは、スープだけでも飲もうとしていました。
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『箸が持てない…』